Monday, November 8, 2010

微熱少年



部屋を掃除していたら、松本隆さんの小説『微熱少年』が出てきたので、久々に読み返してみた。

舞台は1960年代後半、都会に生きる、熱くもないけれど冷めてもいない、「微熱」を秘めた少年たちの青春を描いている。

1949年生まれの松本さんは、私の母親と同世代だ。母親の生まれは関西だが、高校生の頃、東京に引っ越してきたらしい。この小説に書かれている世界は、私が幼少の頃より話して聞かされてきた1960年代のイメージとそれほどかけ離れていなかった。母親も邦楽ではなく洋楽を、それも高校生の頃はロックを好んで聴いていたようなので、そのあたりも、この小説に私が親しみを持てた所以なのだと思う。

やはり、刷り込まれているものが、その後の思考に与える影響は計り知れない。


もう今まで、嫌っていうほど公言してきたことなのだが、私は松本隆さんのファンだ。松田聖子さんのファンになったのも、彼の詩の影響が大きい。何せ、小学生の頃、教科書の片隅に『赤いスイートピー』の歌詞を落書きしていたくらいなのだから、けっこうな筋金入りだ。

何がそんなに好きなのか、自分でもよくわからなかったのだが、よく考えてみると、妙に無国籍な世界観が好みなのだろうと見当がついた。

この人の歌詞で、登場人物はスパイか何かじゃないのか?と疑いたくなるほど、あちこちに旅行をしている。松田聖子さんの歌詞だけでも何カ国に行っているのだろうか?

パリに一人旅をして、ブルージュでは朝食に蜜の付いたワッフルを頬張り、上海では歌姫になり、マンハッタンでははめを外し、宇宙旅行まで経験済みだ。

舞台が日本でも、詩の中に出てくる人たちの行動はどこまでも洋風だ。洒落ていると言ったら聞こえがいいが、イッちゃっている、と言ったほうが正しいのではないだろうか。

たとえば、借りていた辞書の「LOVE」という言葉を切り抜いてから返却したり、別れの手紙と酒の小瓶をスーツケースに忍ばせていたり、意中の人の部屋に電話をかけ、八つ鳴らしたところで切ったり、分厚い手紙を書いたり、少年を誘惑したり、バックターンでポーズをきめたり、他にも数限りない恐ろしい言動を歌詞中から見つけることができるのだ。

以前にも似たような事を書いているのかもしれないが、何度語ってもものすごいと思う。

そして、話が戻るってしまうが、詩の世界に漂う無国籍感、それも、帰国子女のそれとは違う、意図的な無国籍感にも、すごいものがある。

松本さんに限らず、1980年代までの邦楽、邦画、漫画などのあらゆる娯楽作品には、意図的な無国籍感があった。

『夢のハワイで盆踊り』なんて、その最もたる珍例だろう。

それら昔の作品が今の物より洗練されていると言うつもりはない。だが、エネルギッシュだったように思うのは、何も私一人ではあるまい。

きっと1980年代までの日本人は、今の人よりも遥かに外国に憧れていたのだろう。今みたいに簡単に、信じられないくらい安い値段で海外に行けなかったということもあるだろう。そして、それほど情報が豊富でなかったから、海外の魅力的な面だけが人々の目にふれていた可能性は高い。文化的に成熟していないものが多かったこともあるのだろう。しかし、未熟であるということは、成長の必須条件だ。

最近の若い人たちは、あまり外国にかぶれていない。つまらないことだと思う。外国にかぶれてこそ若者ではないか。

今の世の中、外国は身近すぎるように思えて、情報を収集する気にさえならないのかもしれない。旅行にお金と時間を使うくらいなら、漫画を読んだり、ゲームに夢中になっていたいのかもしれない。字幕を読むのが面倒だから、洋画より邦画を好むのかもしれない。

全てのとは言わないが、日本文化が素晴らしいことは否定しない。そんなことはしたいとも思わない。

だが、外国に興味を示さない若者たちを見ていると、何やら不安になってくる。

若いうちに外国に憧れる機会がないと、年をとってから外国かぶれになってしまう可能性があるからだ。

地球に生きている以上、他の国を無視するのはほとんど不可能だ。

年を取ってから和風趣味に回帰するというのならまだわかるが、足腰が弱くなってからエコノミー・クラスで旅行に行くのは拷問に近い。

それに、外来語を多様した説教をされたのでは、聞かされるほうもたまったものではない。

4 comments:

  1. 80年代は邦楽 洋楽共に全盛期のような気がします
    最高でしたよ

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  2. 80年代の映画は好きなのかな、杏里さんは。80年代を代表する映画、フラッシュダンス、蒼いサンゴ礁、トップガンなどたくさんあるけど。
    80年代は、日本の成長がピークに達している時。いろいろな意味で、エネルギッシュだったのだろう。
    外国への憧れは、インターネットなどで情報が溢れているから、難しいね。情報が少ない時代の方が、色々想像できて、外国への憧れは、強かったのだろう。

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  3. 久しぶりに、松本隆さん関連の話題でしたね。文章自体も松本隆の歌詞のオマージュになっていて、思わず「うまい!」とうなってしまいました。冬のリビエラもいいね。はっぴいえんども、妙に洋楽チックなバンドだったしね。その後の80年代、バンドで洋楽っぽいのをやるのは少数派だったけれどね。

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